西駒登山(にしこまとざん)

7月になると駒ヶ根市を含む上伊那郡の中学2年生は、「西駒登山」と称して中央アルプスへの山岳登山を行います。「西駒」とは我々が暮らす西側にそびえる駒ヶ岳という意味の略称です。梅雨が明けた夏山を狙って、一斉に上伊那郡下10校の中学生たちが1泊2日で3,000m級の木曽駒ヶ岳~宝剣岳山頂を目指すのです。
これは昔からの地域の伝統行事であり、考えてみれば実に長野県らしい行事です。諏訪地方の中学生も「八ヶ岳登山」を行うと聞いたことがありますが、全県的な行事かどうかは知りません。
くれぐれも繰り返しますが、トレッキングや軽登山ではありません。アルプスへの本格登山です。

ですから登山本番の数か月前にはリュックサックを購入し、砂袋を詰めて重くした中へ教科書なども入れて登下校することから準備は始まります。
更に登山のひと月前には「予備登山」を行い、標高1,500m程度の里山を一日がかりで練習として登山する行事が先にあるのです。
そうして迎える本番は、健脚な若い教職員数名と保健体育の教職員、父兄代表数名そして山岳ガイドを付けたパーティーを形成します。早朝4時半には学校に集合し、明けきらない暗い中を数台の伊那バスで登山口まで送ってもらったことを記憶しています。

映画ファンならご存じの方もいらっしゃると思いますが、鶴田浩二・三浦友和主演による「聖職の碑(せいしょくのいしぶみ)」という映画がありました。実はこの映画は、我々の「西駒登山」で起こった、実際の山岳遭難事故を題材にしています。悲惨な山岳事故でしたが、それでも上伊那郡の中学校は「西駒登山」を中止にせず、続ける選択をしました。

自分たちの山を、大人になる試練として登っておく。そういう事なのだと思います。上伊那版スタンド・バイ・ミーといった感じかもしれません。
中学2年生程度の体力では、まだまだ3,000m級を登るのはとても苦しいことです。未知の行く手には容赦なくガスが辺りを阻み、激しい雨が中学生たちを叩きます。それでも、いつもは意地悪な彼が手を差し述べて同級生を引っ張り上げ、山小屋では質素なカレーライスを皆でほおばり、21時には互いが抱き合うようにして狭い空間で眠りに落ちます。翌朝、山頂で迎える御来光に照らされた時、オレンジ光の眩しさを皆が黙って見つめていたのはなぜでしょう?
親や先生、県や教育委員会は、こうした体験をさせる道を敢えて選んだのです。

                     画像/CLUBMANx様より