仮説!早太郎伝説

駒ヶ根市・光前寺に伝わる「霊犬・早太郎伝説」。表向きは「化け物退治」の伝承話ですが、これが実は「殺してはならぬ人物の暗殺事件簿」だったとしたらいかがですか?
当ブログでは仮説を立てることで、早太郎伝説を2時間ドラマ風に再現してみました。【あくまでもフィクション】なので、伝説を大切にする少年少女の夢を壊すつもりはありません。関係各位へも、誤解が及びませんようにお願いします。
梅雨の季節「こんな解釈もあるかもね…。」と鎌倉時代に思いを寄せていただければ幸いです。

まずはじめに。日本の伝承話に登場する「狒々(ひひ)」とは妖怪であり実在しません。実在する大型の猿「ヒヒ(英名:Baboonバブーン)」と同一視されている方が非常に多いのは大きな誤りです。バブーンにわざわざ和名を付ける際、妖怪の狒々にちなんで【ヒヒ】などと付けてしまったせいで起こっている混乱と過ちです。
猿のヒヒ(Baboon)は日本列島はおろか、中国大陸にさえも昔から生息せず、民俗学者・柳田國男も「狒々が大型の猿などではないことは明白である」「とにかく存在したであろう狒々の正体とは一体何なのか?」と述べています。

さて興味深いことに、早太郎伝説に似た伝承話が東北~九州までいくつか残されています。そしてこれらの伝説は共通するストーリで構成されているのです。
①なぜ似た話が点在? ②なぜ、旅の僧侶や定住しない山伏が村人を救う? ③なぜ、化け物退治に犬なのか?しかもわざわざ遠方から連れてくる ④退治した化け物の正体が実在しない妖怪「狒々」というオチはなぜなのか?

謎を解く伝承話が山形県に残されています。
早太郎伝説よりもさらに700年ほど古い時代の伝説によると…「都から送られてきた役人」が年貢の代わりに娘を差し出せと里の人々に強要します。旅の座頭がやってきて、「それは役人などではなく妖怪である」ことを見抜くと、甲斐の国(山梨県)から犬を連れてきます。犬が妖怪を嚙み殺した後にわかったのは、「都の役人」に化けていたのは「狸」だっという話です。
もうお気付きでしょう。登場人物を裏返して読み解くと、「早太郎伝説」は急にリアリティを増してきます。
そうです、仮説の答えは「狒々」=「都(幕府)の役人」=「退治できない権力者」です。

●仮説に基づいた、2時間ドラマ風「早太郎伝説」は以下になります。

 静岡県磐田市にあった「見付の村」には、「人身御供」の風習を悪用した犯罪行為に苦しんでいました。神の名を騙り「収穫を終えた祭の日には、若い娘を差し出せ」と村に強要する相手は「都からやってきた役人」なのです。断ればひどい年貢の取り立てやあらぬ罰を着せられ、村全体が疲弊することは明らかです。仕方なく差し出す娘の家を決定するに当たっては、神社の氏子総代や村の総代などの総意によって決定し、夜中のうちにその家へ白羽の矢を射っておくのです。

「もうこれ以上は我慢できない!」積年の恨みに溜まりかねた村の人々は、都の役人を殺してしまおうと決意します。しかし、村人が都の役人を殺したとなれば、村の多くの者が処刑されるでしょう。相談を受けた知恵のある「僧侶」は一案を持っていました。かつて同様にどこかの村で、悪行を行う役人に実行した暗殺手段があったことを知っていたからです。

僧侶はまず、存在しない「旅の僧侶」が来たことにしておき、一連の計画実行は旅の僧侶の仕業にします。次に僧侶は、遠く離れた信州の光前寺に出向き依頼をするのです、「早太郎なる者をお貸しくだされ」。
そうです、「早太郎」は犬などではありません。普段から寺に仕えて雑用などをしてはいますが、勢力を誇る寺社には剣や長刀の心得のある寺社侍がいたものです。早太郎もそうした一人でした。
しかし事は重要であり完全なる秘密裏に行わなくてはなりません。
光前寺を出発する時から、早太郎は自分はもはや一匹の「犬」である事に承知をし、名も「太郎」と言うだけで見付の村へ出向きます。

いよいよその晩、太郎なる者は役人および同行していたであろう二名ほどの侍を暗殺します。瀕死の傷を負いながらも信州まで戻った早太郎でしたが、刀傷は深く、住職へ報告をするやいなや死んでしまいます。哀れに思った住職は境内に墓を建てますが、それでも最後まで隠し通す必要から早太郎を「霊犬」として祀ります。

舞台となった見付村での真相は、「都の役人暗殺事件」なのですが、村人がお咎めを受けることはありませんでした。
日本各地で似た伝説が複数残されていることを考慮すると、都の役所にも恐らく真相はバレているのですが、送り込んだ行政官の悪事のあまりのひどさに対しては村人を処罰をしなかったのではないかと推測しています。
表面上も村人には罪などなく、殺したのはどこかから来た犬、殺されたのは妖怪狒々。一連を計画実行した旅の僧侶など行方知れず。都は…役人が失踪してしまったので新役人を派遣してこの件は完了。愛すべき鎌倉の世とはこうだったのかもしれません。

見付の村の人々は「太郎」なるスーパーヒーローを「悉平太郎(しっぺいたろう」と呼び、亡くなったことを知ると「霊犬神社」を建立して、最後まであくまでも犬としてお祀りしました。悉平とは「(悉)ことごとく、(平)平和をもたらした」と解釈できます。
光前寺には、見付の人々が早太郎に奉納した大般若経が実在しているそうです。

以上が、当ブログがお届けする2時間ドラマ風【仮説】早太郎伝説です。
新作歌舞伎の演目になりそうなストーリー性が満ちてはきませんか?