男女問わず、日本各地で60歳前後の「長野県出身者」がいたら、次のように問いかけてみてください。
「6時の?」「…?」「6時の?…」。おそらく、その長野県出身者はこう答えるでしょう「ジョ…ジョ、ジョッキー!」。
そう、合言葉は「6時のジョッキー」。
(誤りじゃなければ)それは1976年(昭和51年)から始まったNHK-FM長野放送局の「6時のジョッキー」というローカル音楽番組です。当時に思春期だった=今の60歳前後の中高年たちは、こぞってラジカセに耳を当てて聴いていたものです。
長野県の放送電波は決して良好ではありません。山岳地域であることと、駒ヶ根等の南信州からすれば、放送局は遥か遠い長野市にあります。中継局をいくつ経由してもなお、ラジオを持って部屋中をうろうろしながら、聞こえる場所を求めていた当時を想い出します。
しかし、時代は「ラジカセ」ブームが始まります。カセットテープレコーダーにラジオチューナーが内蔵された一体型の夢の様な機器、これがラジカセです。これが地方にも普及し、思春期を迎えて「青春時代」に突入した若者は、自分専用のラジカセが買い与えられるようになった時代が1975年頃でした。
ところが前述の通り、AMラジオ番組では電波の入りも悪く、貴重なカセットテープに曲を録音するには勿体ない。FM放送は音のクリアさは別格でしたが、クラシック音楽や邦楽ばかりのNHK-FMでは、長野県の若者は欲求が満たされないのも当然です。
そこへ、ストンッ!と始まったのが「6時のジョッキー」でした。
クリアな音で、念願の歌謡曲やニューミュージック、フォークソングの数々が丸々一曲流れます。お気に入りの曲が流れる度に「録音」と「再生」の2つのボタンを同時にガチャン!と押して録音開始!ああ、これぞ青春のラジカセといった心持ちでした。
そして、日替わりのディスクジョッキーの女性たちの存在も番組が人気の理由でした。「公募」で選ばれた「一般」の女性たちが、リクエストはがきを淡々と読み上げる飾らなさと、番組進行のシンプルな美しさ。どこぞの「FMなんちゃら」のように、曲紹介に流ちょうな英語も使わず、受け狙いのトークなどは決して話さない清廉ぶり。その様子は神秘さを秘めていくのです。
SNSなどで顔写真が拡散されることもない古き時代に、結局最後まで容姿が公表されることも無く、想像するままに、DJ最終日を涙で終えていく散り際のはかなさ、美しさ。
NHKならではの、CMが入らない澄みやかさと相まって、シンプルに美しい45分間の毎日でした。
6時のジョッキーテーマ曲「Feel So Good/今は亡きチャック・マンジョーネ」
旧6時のジョッキーテーマ曲「ペーパーマシェ/フロイド・クレイマー」はこちら